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卵子提供を受けたら子供の遺伝子はどうなる?
実は卵子提供を受けた母親自身の遺伝子も受け継がれる
卵子提供とそれによる出産については、たくさんの疑問や不安があるでしょう。
その中でももっとも大きなものが「卵子提供によって生まれてきた子供の遺伝子は、卵子提供者側のものなのか、産んだ母親のものなのか」という疑問です。
普通に考えれば、卵子提供によって生まれてきた子供は、夫の精子と卵子提供者の卵子が成長したものなので、その子供が受け継いでいるのは夫と卵子提供者の遺伝子だと考えるのが当然でしょう。これについては科学的にも証明されていることです。
もちろんだからといって、卵子提供を受けた女性が母親ではないというわけではありません。 法的には遺伝子上の親はドナーとなるものの、法律上・戸籍上の親は被提供者となります。
しかしやはり、「自分の子供なのに自分の血を受け継いでいない」という不安や悲しみは、被提供者の多くが抱いているものです。ところが、2015年に驚くべき研究結果が発表されました。
この研究は、イギリスはサウサンプトン大学の産科及び婦人科学のニック・マクロン教授によって得られたデータをもとに、生殖医療研究専門のカルロス・シモン博士とフィリペ・ビレラ博士らが協力して完成させたものです。
彼らが発表した論文によれば、「不妊治療を受けた20人の女性を検査したところ、胎児は母体の羊水を通じて被提供者側のDNAを吸収している」というのです。
これまでは上記の通り、卵子提供で生まれてきた子供は、非提供社のDNAは受け継いでいないという認識が常識となっていたため、この発表は大きな驚きと喜びをもたらしました。
母体の遺伝子情報は卵子だけでなく子宮内の羊水にも含まれていることを確認したというマクロン教授は、以前からドナー卵子によって生まれたはずの子供にも、被提供者の形質が受け継がれている可能性があると考えており、今回の論文はそれを裏付けるものだと言えるでしょう。
卵子提供を受けること、それによって出産をすることにはたくさんのハードルがありますが、せっかくお腹を痛めて産んだ子供に自分の遺伝子が受け継がれていないというのは、高いハードルを超えて卵子提供を受けることに踏み切った母親になおのしかかる大きな不安でした。
しかし、この研究結果によってそうした不安は取り除かれ、卵子提供を受けることに対する心理的なハードルは大幅に低くなると思われます。胎児の発育過程の解明とも合わせて、大きな意味のある発見だったと言えるでしょう。
羊水の影響以外にも子供と似てくる要因
前述の通り、胎児は精子と卵子以外にも母体内の羊水から母親のDNAを吸収していることがわかりました。しかし、卵子提供を受けて生まれた子供が提供者側ではなく被提供者側に似てくる原因は、それだけではないと思われます。
確かに生まれてくる子供は両親の遺伝子を受け継いで生まれてきますが、子供が親に似る理由はそれだけではありません。卵子提供によって生まれてきたとは言え、その子供を実際に母親として育てるのは被提供者側です。
もちろん母親は子供と生活をともにし、その中でさまざまなライフイベントを経験していきます。 ときには喜び、時には悲しむといった経験をともにしていくうちに、親子は自然に似てくるもの。
実、人間の形質はそのすべてが受け継いだ遺伝子だけによるものではなく、その後の育成環境や経験も大きく影響することがわかっています。また、子供と母親との結びつきには周囲の人々も大きく影響します。
実際に卵子提供による出産を経験した方からも、周囲の人々から「お母さん」と呼ばれ続け、卵子提供のことを知らない人からも「目元がお母さんに似ているね」などと言われたという声が上がっているのです。生まれた後の環境や経験によっても、子は母に似てくるという好例と言えるでしょう。
これからは母親の遺伝子も使って卵子提供が受けれるかも?
卵子提供はいろいろな側面でハードルが高いものですが、今後の卵子提供のハードルを一気に低くできる可能性のあるニュースがあります。2016年、メキシコのヨルダンにて、世界初の3人分のDNAを持つ赤ちゃんが誕生したというものです。
この赤ちゃんの母親は、「リー症候群」という母性遺伝による神経系障害を持つ女性です。
今回の出産にあたり、治療にあたったニューヨークの医療チームは、母親の卵子から抽出した核を移植した卵子提供者の卵子を使用。
これによって母親の核DNAと提供者のミトコンドリアDNAを併せ持つ卵子を作成して、父親の精子で受精させたのです。もちろんこうした処置がすぐに普及するわけではありませんが、こうした成果に寄って卵子提供のハードルは低くなりつつあるのです。