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リスクについて考える
卵子ドナー(エッグドナー)に興味はあるけれどもリスクが気になるという方のために、主なリスクについて解説をいたします。
一番心配な体調面でのリスクについて
まず気になる、体調面でのリスク。排卵を人工的に起こす排卵誘発剤を用いると、体にはいくつかの変化が起こります。
精子の侵入を手助けする子宮頚管粘液の減少
子宮頚管粘液は、膣と子宮腔の間にある「子宮頚管」に存在する粘液の事で、生理のサイクルに合わせて分泌量が変化します。
子宮頚管粘液が適度に分泌されている時に性交をすると精子が卵管に進みやすくなり、妊娠する可能性が高くなります。
子宮内膜があまり厚くならない
子宮内膜はよくベッドに例えられますが、8~10ミリ以上など適度に厚みがあると、ふかふかしていて着床がしやすくなります。反対に子宮内膜が薄い場合は、受精卵がうまく着床しないので妊娠しにくい状態です。[注1]
これらの変化は妊娠を希望する方にとっては重要項目ですが、卵子提供をする場合は全く問題ありません。これらの変化は一時的なもので、次の排卵時には元に戻ります。
複数の卵子が排卵される可能性が高くなる
不妊治療に使われている排卵誘発剤を使用することで、双子や三つ子が生まれる可能性が高くなるというリスクがあります。[注2]
卵子提供の場合はひとつでも多くの卵子を提供したほうが良いですから、こちらはむしろ好都合な変化といえそうですね。
ちなみに卵子は思春期の段階で20万個ありますが、排卵されるのはそのうち500個程度。1つの排卵が起こるたびに7~8個が犠牲になり消えてしまうそうです。
排卵誘発をする際は、本来犠牲になるはずの卵子を育てて採取するため、卵子数の減少につながることもないそうです。
また排卵誘発剤を使って排卵を促したからと言って、閉経が早まる心配もありません。
卵巣過剰刺激症候群による体調不良
排卵誘発剤は、卵巣を刺激するホルモンの分泌を活発にする効果があります。そのため、服用することで
- 多数の卵胞が育ち卵巣が大きく腫大する
- 血液濃縮になり、体調不良を起こす
といったケースも存在し、このような症状を「卵巣過剰刺激症候群」といいます。
薬により卵巣を必要以上に刺激してしまった影響で卵巣が膨れ上がり、ごく一部の方は腹水がたまったり、軽い頭痛や吐き気を感じるなどの症状がでる場合もあります。
使用する排卵誘発剤の種類によって多少異なりますが、卵巣過剰刺激症候群が起こる確率は10万分の1程度とされています。
可能性は低いですが、重症になると腎不全や血栓症などを引き起こす場合があるため注意が必要です。
ただしいずれも短期的な症状で治療は可能ですし、その後の生理・妊娠出産への影響はありません。
多くのエージェントはドナーの安全を一番に考えてプログラムを進行してくれているので、万が一体調が悪くなった際にも適切なケアを施してくれます。
長期間の自己管理リスク
卵子提供は、卵子を提供して終わり、という簡単なものではありません。卵子を提供するには、提供する前の数ヶ月間しっかりと自己管理をする必要があるので、怠ると大きなリスクにつながります。
卵子提供は海外で行われることが多いため、渡航前と渡航後の体調管理は必須です。
渡航前はピルを服用して生理周期を調整する
渡航前に大よその採卵日が決まり、その予定に合わせてピルを服用し生理周期を合わせます。初めてピルを服用する場合、頭痛や吐き気、出血や微熱と言った体調不良が起きるケースもあります。
この期間は体調管理を徹底するため飲酒、喫煙、サプリメントや薬類の服用は禁止されていることが多いです。また、感染症や妊娠を防ぐために性行為も禁止になっています。
渡航後は排卵誘発剤を自己注射する
渡航後にも検診があり、この時に排卵誘発剤を自己注射する方法について説明を受けます。自己注射には、シリンジ型の注射器の他に、ペン型の注射器を使用したより簡単な方法もあり、それほど難しいわけではありません。
まだ自分ではできないという人は、クリニックに毎日通院して注射してもらう必要があります。
採卵までの期間は、基本的には自由行動ができますが、感染症予防のためプールの使用は禁止です。
この他にも、医師によっては食事や水分について指導を受けることがあります。
このように、卵子提供をするには長期にわたり細心の注意を払い、体調管理をする必要があるのです。
健康な卵子を提供できるように、エージェントによっては契約期間中にこの他にもいろいろな制限をしている所もあります。
最初は面倒に感じるかもしれませんが、期間は数週間だけ。終われば元の生活に戻れますので心配はいりません。
心身に負担がかかるリスク
卵子提供をすることになった場合、やはり体にはある程度負担がかかります。卵子提供者は20〜30歳ぐらいまでの人が多いため、体力面は心配いらないでしょう。それでも卵子を提供するまでの期間は、生活において制限しなくてはならないこともあります。
また、ピルや排卵誘発剤などを摂取しなくてはいけないので、こういった薬によってめまいや吐き気などの体調不良を起こすことも考えられます。もちろん卵子提供をした全ての人に起こるわけではありませんが、「自分はならない」とも言い切れません。
最初は軽い気持ちで卵子提供の申し込みをしたけれど、提供者が決まって実際に契約書を交わしたり、ピルを飲み始めたりすると、現実感が出てきます。その時に、自分の卵子が使われることに少なからず抵抗を感じ始める人も。
卵子提供による生活の制限だけでなく、このような面でストレスを感じてしまう可能性もないとは言えません。
こういった精神的、肉体的なストレスによって、腹痛や頭痛などの体調不良に繋がることもあるのです。
排卵手術によるリスク
採卵手術自体は決して難しい手術ではありませんが、リスクが全くないというわけではありません。
採卵手術の方法
卵子は、卵胞の中にある「卵胞液」にくるまれたような状態で存在します。
採卵手術は、膣壁から卵胞に針を刺して吸引し、卵胞液と一緒に卵子を採取するというものです。この一連の流れを、膣式超音波モニターを見ながら行います。採取時間は10〜20分ほどです。
手術ミスは極めて少ないが100%ではない
先程も述べたように、採卵手術は難しい手術ではありません。しかしモニターを見ながら手術をするため、卵胞に針を刺すつもりが違うところに刺してしまい、採卵できないばかりか出血を止める施術が必要になるケースもあります。
採卵手術は全身麻酔か局所麻酔をして行われます。そのため痛みはほとんど感じない人が多い反面、痛みに敏感な人は術後に違和感を感じたという人もいます。
エージェントを通した卵子提供の場合、提携病院は採卵に慣れているので、ほとんどの病院では手術ミスなどはありません。ただし、可能性としてこういったリスクがあることも覚えておいた方が良いでしょう。
帰国後の日常生活におけるリスク
無事卵子ドナーとしての仕事を終え、日常に戻った際に考えられるリスクとしては、以下のようなものがあります。
- 卵子提供した夫婦に会ってしまう
- 出産された子どもとドナーである自分との法的な関係が気になる
- 自分が卵子提供をしたことを知られてしまう
どんなことがあっても、夫婦はドナーの許可無く会うことは出来ないようにエージェント側で管理されています。当然、お互いの連絡先を教えることもありません。また、エージェントは卵子提供した事実を外部に漏らすことは絶対にありません。
万が一ご夫婦と生まれた子どもに会うことがあるとすれば、街中ですれ違う程度でしょうから、あなたの卵子で誕生したなどと他の方が気づくはずもないのです。
子どもは法的にも出生した夫婦の子であると認められていますので、何の責任も負う必要がないし、逆に何の権利も主張する必要はありません。
出産された子どもとドナーである自分との法的な関係
近年、卵子提供による出産が増えています。しかし日本では、エッグドナーとその卵子によって生まれた子どもの法律的な関係を定義する法律がまだ制定されていません。
卵子提供によって生まれた子どもとドナーの法的な関係はありません。なぜなら、卵子の提供は受けていますが、その卵子をお腹で育てたのは母親だからです。日本では「出産した人が母親」と決められているので、生まれた子どもは卵子提供を受けたご夫婦の実の子どもとして戸籍に入れることができます。
このように、エッグドナーと生まれた子どもに関する法律が日本でまだ制定されていない背景には、日本産科婦人科学会による見解があります。日本産科婦人科学会は、厚生労働省から
"精子・卵子・胚の提供等による生殖補助医療のうち、AID以外は同報告書における結論を実施するために必要な制度の整備がなされるまで実施されるべきでない"[注3]
という旨の通達を受け、これを周知したのです。
現在日本では、
- 生まれつき卵子が存在しない(ターナー症候群など)
- 夫婦間体外受精を6回以上行っても妊娠・出産に至らず、その原因が卵子にある
- 遺伝性疾患の保因者・患者で、着床・出生前検査、妊娠中絶を望まない
などの理由で、妊娠できない人に卵子提供が行われています。[注4]
加齢による不妊治療を行っている夫婦(医師の判定にもよりますが、女性の年齢が50歳くらいの場合)には卵子提供は適用されません。
不妊治療の理由だけでは、国内で卵子提供を受けることはできないのが現実です。
そのため、不妊治療のために海外で卵子提供を受けるケースが多くなっています。このような背景もあり、最近は卵子提供を受けて妊娠・出産する人が多いのにもかかわらず、しっかりとした法律が制定されていないのです。
卵子提供が出来なかった場合は
ドナー登録が完了し、依頼を受けても国内・もしくは海外での検診の段階で問題が発覚する場合があります。その場合においても、ドナーが渡航費や医療費などを負担する必要は一切ありません。
また、採卵数が少なかった場合には謝礼金が多少減額されますが、ドナーに責任がかかることはありませんので、安心してください。
ただし、ドナーがプログラムで指示された内容に従わない等の契約違反をした場合には、費用負担が発生するケースもありますので、決められた契約はきちんと順守し、違反のないようにしてください。
[注1]新技術説明会:再生医療技術を用いて不妊症の克服を目指す[pdf]
[注3]公益社団法人 日本産科婦人科学会:声明
[注4]JISART(日本生殖補助医療標準化機関):精子・卵子の提供による被配偶者間体外受精に関するJISARTガイドライン[pdf]